御主人様と愛奴 変態の日々の記録
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Author:愛奴
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御主人様の愛奴です。
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お部屋はいつもと同じ高層階。
景色は少し霞んでいましたが、それが都会のビルをより高くへと際立たせていました。
「さっき歩いていた道が見えますね」
愛奴にジャケットを放ってから、煙草に火を付けて下界を眺められる御主人様。
私はそれをクローゼットに丁寧に仕舞うと、履いていたパンプスを急いで脱ぎました。
御主人様の前で靴を履いている事が、どうにも気持ちが悪くて仕方がないのです。
いつからそう想うようになったのかは覚えていません。
けれどそれが何だか酷くおこがましい気がして。
革靴の御主人様。
裸足の愛奴。
そんな空間に、私は心地好さを感じるようになっていました。
ストッキング越しに絨毯を感じながら、スーツケースから首輪を取り出した私。
茶封筒と手土産を持って、急いで御主人様の足元に座ります。
それらをいそいそとテーブルに並べた私は、今にもその脚に飛び付きそうに見えていたのでしょう。
「靴」
少しだけ差し出された脚を嬉しく想いながら両腕で抱え、革靴と靴下を丁寧に取り除いて行きました。
裸足になられた御主人様は、ベルベットの袋から首輪を取り出すと、冷たいですねと声を掛けながら、愛奴に優しく嵌めて下さいます。
私の大好きな時間。
本当なら外したくない、御主人様の所有物である証。
御主人様がいらっしゃらなければ、自分では何もする事の出来ない存在なのだと示して頂いている気がして。
囚われの銀の輪は、その意味とは真逆に、私を全てから解放してくれる印でもあるのです。
御主人様が脱がれたネクタイとワイシャツを預かった私は、首輪を鳴らしながら再びクローゼットへと向かいました。
それらを綺麗に整えてハンガーに掛け終わると、扉から顔を覗かせる愛奴目掛けて、次々にお洋服が飛んで来ます。
それをはしゃぎながら受け止める私。
全てをクローゼットに仕舞い、きちんと扉を閉めた時。
いつの間にか背後にあったのは、私を覆い尽くそうとされる御主人様の御姿でした。
すっと手を伸ばされ、後ろから乳房を鷲掴みにされます。
それは嬉しい事の筈なのに。
嬉し過ぎて、どう反応すれば良いのか判らない。
初めて御主人様にお逢いした時のように、未だに私はその応えを見つけられずにいました。
そんな事を考えている内に鏡の前へと引きずられ、たくし上げられたワンピースから、下着を着けていない乳房が自然光に晒されます。
御主人様の大きな手に直接潰された胸と、その指先に触れる硬い乳首。
それは普通のセックスであれば、何もおかしい所等ある筈のない光景。
けれど私は、恥ずかしくて恥ずかしくて居たたまれないのです。
この身体は御主人様の物で、何度も繰り返し使って頂いているのに。
それなのにそう想えてしまうのは、私が御主人様の愛奴である証なのかもしれません。
私が最も敬愛し、慈しむお方。
御主人様という絶対的な存在の前では、私は何一つ偽る事等出来ない。
戸惑う事しか出来ない愛奴は、只々、御主人様に翻弄されていました。
「服を脱ぎなさい」
そう仰ると、私から離れベッドに横になられる御主人様。
急いで全裸になった私がお傍へ寄ると、御奉仕をするように命じられます。
この時だけは不思議と恥ずかしくない。
さっきまでの自分が可笑しいくらいに、すっかりと落ち着いていて。
御主人様のペニスは何て美味しいんだろうと想っていると、ふと名前を呼ばれました。
「愛奴」
その響きがどんなに麗しいか。
私は自分の名前が嫌いでしたが、初めて自分の名前を打ち明けた時に、御主人様が良い名前だと褒めて下さってから。
この名前で良かったと、生まれて初めて心から想えるようになったのです。
次に紡がれる御命令を受ける為。
開いたままの口を閉じる事なく、御主人様のお顔を見た私。
その視線を逸らす事なく、テーブルの上に乗っている物をこちらへ運ぶようにと優しく命じられました。
私は形状記憶をしている口を無理矢理閉じ、ベッドから転がり降りると、小さなテーブルに乗っている物をベッドサイドへと運びます。
「煙草、灰皿、お酒、封筒…」
御主人様の御命令を復唱しながら、忘れ物のないようにお部屋を行き来する愛奴。
それを確認された御主人様は、テーブルの上に揃った物を確認され、小さく私を褒めて下さると、御奉仕を再開するようにと命じられました。
その脚の間に戻り、顔を埋める私。
お酒を一口飲まれた御主人様は、煙草に火を付けてから封筒の中身を確認されます。
いつもはその紙幣の擦れる音だけに耳を傾けていたのに。
この時はそれすらも聞こえてはいなかったのです。
御奉仕をさせて頂ける事。
御主人様のお役に立てるという事は、どうしてこんなにも私の心を満たすのでしょう。
御主人様が悦んで下さる事。
只、それが嬉しいという事実。
私に触れて頂ける事がなくても、心と身体はいっぱいに満たされて。
この口と舌を使って、御主人様への忠誠をお伝えする事。
それを御主人様が受け取って下さり、悦んで下さる事。
御奉仕という行為は、御主人様と私にとって、言葉以上の物を伝達してくれる手段なのかもしれません。
「頑張りましたね」
封筒の中身を数え終わった御主人様が、封筒に紙幣を仕舞いながら、愛奴にお褒めの言葉を与えて下さいました。
そこに含まれる意味の重さに、色々な感情がぐっと込み上げて来ます。
お逢い出来ない間の全ての努力が、その掌で掬って頂いているような気がして。
御主人様が理解して下さっている事を知っているからこそ、御主人様からの御言葉は、いつも私を綺麗に浄化してくれるのです。
そんな愛奴への御褒美だったのでしょうか。
「乳首を舐めなさい」
余りの驚きにペニスから口を離した私は、思考が完全に停止してしまいました。
景色は少し霞んでいましたが、それが都会のビルをより高くへと際立たせていました。
「さっき歩いていた道が見えますね」
愛奴にジャケットを放ってから、煙草に火を付けて下界を眺められる御主人様。
私はそれをクローゼットに丁寧に仕舞うと、履いていたパンプスを急いで脱ぎました。
御主人様の前で靴を履いている事が、どうにも気持ちが悪くて仕方がないのです。
いつからそう想うようになったのかは覚えていません。
けれどそれが何だか酷くおこがましい気がして。
革靴の御主人様。
裸足の愛奴。
そんな空間に、私は心地好さを感じるようになっていました。
ストッキング越しに絨毯を感じながら、スーツケースから首輪を取り出した私。
茶封筒と手土産を持って、急いで御主人様の足元に座ります。
それらをいそいそとテーブルに並べた私は、今にもその脚に飛び付きそうに見えていたのでしょう。
「靴」
少しだけ差し出された脚を嬉しく想いながら両腕で抱え、革靴と靴下を丁寧に取り除いて行きました。
裸足になられた御主人様は、ベルベットの袋から首輪を取り出すと、冷たいですねと声を掛けながら、愛奴に優しく嵌めて下さいます。
私の大好きな時間。
本当なら外したくない、御主人様の所有物である証。
御主人様がいらっしゃらなければ、自分では何もする事の出来ない存在なのだと示して頂いている気がして。
囚われの銀の輪は、その意味とは真逆に、私を全てから解放してくれる印でもあるのです。
御主人様が脱がれたネクタイとワイシャツを預かった私は、首輪を鳴らしながら再びクローゼットへと向かいました。
それらを綺麗に整えてハンガーに掛け終わると、扉から顔を覗かせる愛奴目掛けて、次々にお洋服が飛んで来ます。
それをはしゃぎながら受け止める私。
全てをクローゼットに仕舞い、きちんと扉を閉めた時。
いつの間にか背後にあったのは、私を覆い尽くそうとされる御主人様の御姿でした。
すっと手を伸ばされ、後ろから乳房を鷲掴みにされます。
それは嬉しい事の筈なのに。
嬉し過ぎて、どう反応すれば良いのか判らない。
初めて御主人様にお逢いした時のように、未だに私はその応えを見つけられずにいました。
そんな事を考えている内に鏡の前へと引きずられ、たくし上げられたワンピースから、下着を着けていない乳房が自然光に晒されます。
御主人様の大きな手に直接潰された胸と、その指先に触れる硬い乳首。
それは普通のセックスであれば、何もおかしい所等ある筈のない光景。
けれど私は、恥ずかしくて恥ずかしくて居たたまれないのです。
この身体は御主人様の物で、何度も繰り返し使って頂いているのに。
それなのにそう想えてしまうのは、私が御主人様の愛奴である証なのかもしれません。
私が最も敬愛し、慈しむお方。
御主人様という絶対的な存在の前では、私は何一つ偽る事等出来ない。
戸惑う事しか出来ない愛奴は、只々、御主人様に翻弄されていました。
「服を脱ぎなさい」
そう仰ると、私から離れベッドに横になられる御主人様。
急いで全裸になった私がお傍へ寄ると、御奉仕をするように命じられます。
この時だけは不思議と恥ずかしくない。
さっきまでの自分が可笑しいくらいに、すっかりと落ち着いていて。
御主人様のペニスは何て美味しいんだろうと想っていると、ふと名前を呼ばれました。
「愛奴」
その響きがどんなに麗しいか。
私は自分の名前が嫌いでしたが、初めて自分の名前を打ち明けた時に、御主人様が良い名前だと褒めて下さってから。
この名前で良かったと、生まれて初めて心から想えるようになったのです。
次に紡がれる御命令を受ける為。
開いたままの口を閉じる事なく、御主人様のお顔を見た私。
その視線を逸らす事なく、テーブルの上に乗っている物をこちらへ運ぶようにと優しく命じられました。
私は形状記憶をしている口を無理矢理閉じ、ベッドから転がり降りると、小さなテーブルに乗っている物をベッドサイドへと運びます。
「煙草、灰皿、お酒、封筒…」
御主人様の御命令を復唱しながら、忘れ物のないようにお部屋を行き来する愛奴。
それを確認された御主人様は、テーブルの上に揃った物を確認され、小さく私を褒めて下さると、御奉仕を再開するようにと命じられました。
その脚の間に戻り、顔を埋める私。
お酒を一口飲まれた御主人様は、煙草に火を付けてから封筒の中身を確認されます。
いつもはその紙幣の擦れる音だけに耳を傾けていたのに。
この時はそれすらも聞こえてはいなかったのです。
御奉仕をさせて頂ける事。
御主人様のお役に立てるという事は、どうしてこんなにも私の心を満たすのでしょう。
御主人様が悦んで下さる事。
只、それが嬉しいという事実。
私に触れて頂ける事がなくても、心と身体はいっぱいに満たされて。
この口と舌を使って、御主人様への忠誠をお伝えする事。
それを御主人様が受け取って下さり、悦んで下さる事。
御奉仕という行為は、御主人様と私にとって、言葉以上の物を伝達してくれる手段なのかもしれません。
「頑張りましたね」
封筒の中身を数え終わった御主人様が、封筒に紙幣を仕舞いながら、愛奴にお褒めの言葉を与えて下さいました。
そこに含まれる意味の重さに、色々な感情がぐっと込み上げて来ます。
お逢い出来ない間の全ての努力が、その掌で掬って頂いているような気がして。
御主人様が理解して下さっている事を知っているからこそ、御主人様からの御言葉は、いつも私を綺麗に浄化してくれるのです。
そんな愛奴への御褒美だったのでしょうか。
「乳首を舐めなさい」
余りの驚きにペニスから口を離した私は、思考が完全に停止してしまいました。
飲み物を調達する為、いつものコンビニに入って行かれる御主人様。
私はそれをガラス越しにお待ちするのが恒例なのですが、この時は建物の中に入る事なく、冷たい外気に全身を吹かれていました。
丁度、ランチタイムの時間なのでしょう。
首から社員証のような物をぶら下げた人々が、頻りにコンビニを出入りしています。
その一人一人から向けられる視線。こんな所で何をしているんだ?そう言われているような気がしましたが、私は一人で自分と向き合っていました。
冷たい風が、混乱する頭を宥めてくれる気がして。
ぎゅっと胸を押さえながら、突き抜ける空に思考をクリアにしていたのです。
御主人様の柔らかくて深い愛情。
それを解っていながら、コントロール出来ない自分の気持ち。
何て小さいんだろう。
どうしてこんなにも欲深いんだろう。
寒い。
苦しい。
けれどこれは私自身の問題。
自分でどうにかしなくては。
自分で消化出来るよう、もっと御主人様に相応しくならなくては。
まるで冷たい風に自分を戒めるように。
ざわざわと聞こえる胸にそう言い聞かせる私には、目の前を通り過ぎる「日常」が、ずっと遠くに感じられていました。
「寒かったでしょう?中で待っていれば良かったのに」
小さなビニール袋を下げて、すっと現れた御主人様。
一瞬にして色付いた景色は、私を何とか立ち上がらせてくれます。
ほら、御主人様はいつも必ずお優しい。
それを知っているのは貴女自身でしょう?
そう私と対話をした私は、さっきまでの気持ちをその場に置き去りにして。
革靴を鳴らして歩いて行かれる御主人様を、建物の中へと追い掛けて行きました。
チェックインを済ませ、予め送っておいたスーツケースを受け取り、お部屋へと向かいます。
またもタイヤ部分までビニールで包まれてしまっている為、絨毯の上を転がす事の出来ないスーツケース。
それに振り回される愛奴から無言で持ち手を奪い取った御主人様は、あっという間にお部屋まで荷物を運んで下さいました。
私はそれをガラス越しにお待ちするのが恒例なのですが、この時は建物の中に入る事なく、冷たい外気に全身を吹かれていました。
丁度、ランチタイムの時間なのでしょう。
首から社員証のような物をぶら下げた人々が、頻りにコンビニを出入りしています。
その一人一人から向けられる視線。こんな所で何をしているんだ?そう言われているような気がしましたが、私は一人で自分と向き合っていました。
冷たい風が、混乱する頭を宥めてくれる気がして。
ぎゅっと胸を押さえながら、突き抜ける空に思考をクリアにしていたのです。
御主人様の柔らかくて深い愛情。
それを解っていながら、コントロール出来ない自分の気持ち。
何て小さいんだろう。
どうしてこんなにも欲深いんだろう。
寒い。
苦しい。
けれどこれは私自身の問題。
自分でどうにかしなくては。
自分で消化出来るよう、もっと御主人様に相応しくならなくては。
まるで冷たい風に自分を戒めるように。
ざわざわと聞こえる胸にそう言い聞かせる私には、目の前を通り過ぎる「日常」が、ずっと遠くに感じられていました。
「寒かったでしょう?中で待っていれば良かったのに」
小さなビニール袋を下げて、すっと現れた御主人様。
一瞬にして色付いた景色は、私を何とか立ち上がらせてくれます。
ほら、御主人様はいつも必ずお優しい。
それを知っているのは貴女自身でしょう?
そう私と対話をした私は、さっきまでの気持ちをその場に置き去りにして。
革靴を鳴らして歩いて行かれる御主人様を、建物の中へと追い掛けて行きました。
チェックインを済ませ、予め送っておいたスーツケースを受け取り、お部屋へと向かいます。
またもタイヤ部分までビニールで包まれてしまっている為、絨毯の上を転がす事の出来ないスーツケース。
それに振り回される愛奴から無言で持ち手を奪い取った御主人様は、あっという間にお部屋まで荷物を運んで下さいました。
冬を前に、ぐっと冷え込んだ早朝。
前日に御主人様と服装の相談をしていた私は、準備していたワンピースに着替えて家を出ました。
ぴんと高い水色の空は、何処までも澄んだように広がって。
快晴のフライトは、私を何時もより早く御主人様の元へ運んでくれたのでした。
何時ものお店の、何時もの席。
すっかり秋冬の装いになられた御主人様は、今日もスーツ姿がとても素敵で。
周りの景色が本当に霞んで見える程。
「あれが私の御主人様?」
そう自分の目を疑った過去を想い出しながら、お向いの席へと座りました。
何時ものメニューと優しい会話。
穏やかな時間にリラックスされたのか、後で少し散歩をしようかと提案して下さる御主人様。
初めての事にきょとんとする私に、紅葉の程度を確かめたいのだと優しいお顔を見せて下さいます。
確かに今日は予定よりも早く到着していましたし、チェックインの時間までは少し余裕があります。
ですから、そのご提案に特別な意味はなかったのかもしれません。
それでも。
御主人様と一緒にまた違った時間を過ごせる事が、私にはとても特別な事に感じられて。
お店を後にした私は、御主人様の数歩後を着いて歩き出しました。
まるで見えないリードに引かれているように。
外は穏やかな秋晴れ。
少しひんやりと感じる空気に、御主人様の背中を追い掛けながら、緩やかな坂道を必死に登ります。
今日も歩みの遅い愛奴を何度も振り返りながら、私が着いて来ているかを確認して下さる御主人様。
まだ青い雑木の葉を確認しながら、他愛のない言葉を交わしていました。
本当はその腕に掴まらせて頂きたい。
けれど私の心は、ひっそりと冷たい風にざわめいていて。
それを掻き消すように明るく振る舞いながら、がむしゃらに足を動かしていたのですが。
緩やかな下り坂に差し掛かった時。
思わず足がもつれて御主人様の背中にぶつかってしまいました。
そんな愛奴を振り返り、怪訝そうな視線を向けられたのですが…。
「また転ぶのかと思いましたよ」
その一言が。
小さな私の心を、一気に吹き飛ばして行ったのです。
それは何度目の調教だったでしょう。
夕暮れ時、御主人様の腕に掴まりながら、駅までの坂道を下っていた時の事。
どんどんと歩いて行かれる御主人様に引きずられていた私は、予想通りにヒールで躓いてしまい…。
細身の御主人様に、全体重でぶら下がってしまいました。
けれど御主人様はしっかりと私を支えて下さって。
その力強さに胸を打たれた事は、私の中で大切な想い出の一つとなっていました。
その時と同じ。
馬鹿な愛奴を見下ろす視線と、その奥にある暖かい優しさ。
御主人様もあの時の事を覚えていて下さったのだと。
ぐっと込み上げる想いに、私の心は混乱していました。
前日に御主人様と服装の相談をしていた私は、準備していたワンピースに着替えて家を出ました。
ぴんと高い水色の空は、何処までも澄んだように広がって。
快晴のフライトは、私を何時もより早く御主人様の元へ運んでくれたのでした。
何時ものお店の、何時もの席。
すっかり秋冬の装いになられた御主人様は、今日もスーツ姿がとても素敵で。
周りの景色が本当に霞んで見える程。
「あれが私の御主人様?」
そう自分の目を疑った過去を想い出しながら、お向いの席へと座りました。
何時ものメニューと優しい会話。
穏やかな時間にリラックスされたのか、後で少し散歩をしようかと提案して下さる御主人様。
初めての事にきょとんとする私に、紅葉の程度を確かめたいのだと優しいお顔を見せて下さいます。
確かに今日は予定よりも早く到着していましたし、チェックインの時間までは少し余裕があります。
ですから、そのご提案に特別な意味はなかったのかもしれません。
それでも。
御主人様と一緒にまた違った時間を過ごせる事が、私にはとても特別な事に感じられて。
お店を後にした私は、御主人様の数歩後を着いて歩き出しました。
まるで見えないリードに引かれているように。
外は穏やかな秋晴れ。
少しひんやりと感じる空気に、御主人様の背中を追い掛けながら、緩やかな坂道を必死に登ります。
今日も歩みの遅い愛奴を何度も振り返りながら、私が着いて来ているかを確認して下さる御主人様。
まだ青い雑木の葉を確認しながら、他愛のない言葉を交わしていました。
本当はその腕に掴まらせて頂きたい。
けれど私の心は、ひっそりと冷たい風にざわめいていて。
それを掻き消すように明るく振る舞いながら、がむしゃらに足を動かしていたのですが。
緩やかな下り坂に差し掛かった時。
思わず足がもつれて御主人様の背中にぶつかってしまいました。
そんな愛奴を振り返り、怪訝そうな視線を向けられたのですが…。
「また転ぶのかと思いましたよ」
その一言が。
小さな私の心を、一気に吹き飛ばして行ったのです。
それは何度目の調教だったでしょう。
夕暮れ時、御主人様の腕に掴まりながら、駅までの坂道を下っていた時の事。
どんどんと歩いて行かれる御主人様に引きずられていた私は、予想通りにヒールで躓いてしまい…。
細身の御主人様に、全体重でぶら下がってしまいました。
けれど御主人様はしっかりと私を支えて下さって。
その力強さに胸を打たれた事は、私の中で大切な想い出の一つとなっていました。
その時と同じ。
馬鹿な愛奴を見下ろす視線と、その奥にある暖かい優しさ。
御主人様もあの時の事を覚えていて下さったのだと。
ぐっと込み上げる想いに、私の心は混乱していました。
電車のホームに並ぶ御主人様と私。
時折、咳をされている様子を気にしながら、今日も混んでいる電車に乗り込みます。
しばらく吊革に掴まっていたのですが、目の前の方が降りられたので、二人で並んで座席に座る事が出来ました。
電車の揺れに合わせて、少しだけ触れ合う肩が優しく嬉しい。
こんな光景が日常だったら良いのに…。
流れて行く景色に淡い願いを込めながら、あっという間に電車は空港へと到着しました。
いつも大勢の人々が行き交う空港は、その腕に掴まっていなければ簡単にはぐれてしまいそうで。
混雑に紛れて御主人様にくっついていた私でしたが、人気のないエスカレーターで、一段だけその距離を取りました。
べたべたするのが好きではない。
ずっと前にそう仰っていた御主人様。
その御言葉がずっと心に残っている私は、余りくっつき過ぎてはいけないのだと認識していて。
けれどその加減も良く判らずに、御主人様の様子を伺いながら行動していました。
きっと御主人様は、そんな愛奴をきちんと感じ取って下さっているのでしょう。
二段下にいる私に手を伸ばし、お腹をくすぐって来られたのです。
まるで、何故そんなに距離を取るのかと言わんばかりに。
私はそれが苦しい程に嬉しくて。
一段距離を縮めて寄り添った背中は、とても暖かく優しい物でした。
この日は食べたい物を決めていらっしゃったのか、迷う事なく一直線にお店へと向かわれた御主人様。
幾度となく訪れている空港には、幾つかのお気に入りが出来ていらっしゃるようで。
前回訪れた時と同じ席に座り、飲み物を注文し終えた時。
突然、温泉の計画を立てようと提案されたのです。
一緒にお風呂に入る度、その腕の中で過ごす時。
度々登場する温泉旅行の話題に、まだ当分先になるのだろうと想っていた私。
ですから予想もしていなかった展開に、無邪気に悦んでしまった私がいけなかったのでした。
「この日はどうですか?」
そう御主人様が指定をされたのは、以前から友達と会う約束をしていた日。
他の日が空いていないかどうか恐る恐る尋ねてはみましたが、お忙しい御主人様が首を縦に振られる筈はありません。
私にとって、御主人様より優先すべき事は何も無い。
それは非常に簡単な事で、選択する事すら無意味に感じられました。
友達に謝ろう…。日程が決まった事で、どんどんと計画を進められる御主人様。
「わくわく」という言葉そのままに、あっという間に航空券の手配まで済まされました。
それに合わせて、旅館を予約する私。
けれどもここで、再び御主人様が私の予定を確認されたのです。
この時どうして本当の事を言ってしまったのか…。
馬鹿な自分を酷く後悔しました。
けれど御主人様に嘘を吐く事等、私に出来るが筈ありません。
私は再度、友達との先約があった事を説明し、友達に謝って御主人様と温泉に行くとお話ししました。
すると御主人様は、この時初めてその事情を十分に把握された様子で…。
良く確認すれば良かったと、私に謝って来られたのです。
それは滅多に聞く事のない、御主人様からの御言葉。
私はそれが余りに悲しくて。
約束をしていた友達とは古い付き合いですし、事情を話せば理解をしてくれるだろう事は判っていました。
友達には本当に申し訳ないけれど、私はどうしても御主人様を優先したい。
私が予定を変更するから大丈夫ですと繰り返しお話をしたのですが、御主人様は既に温泉旅行の延期を決定されていました。
温泉はまた行けるのだからと。
友達との約束を守るようにと。
私はそれが悲しくて、悲しくて。
お顔からわくわく感の消えてしまった御主人様を見ながら、どうしようもなく泣きたくなっていました。
けれど。
尊敬する最愛の御主人様。
そこに寄り添う愛奴が、友達との約束を簡単に破るような薄情者で良いのだろうか…。
そう想った私は、御主人様の優しさを受け入れ、全ての予約をキャンセルしたのでした。
一緒に悦んだ気持ちがあっという間に萎んで、御主人様と私は手荷物検査場まで歩いて行きます。
酷く落ち込む私に苦笑いをされる御主人様は、ソファーに座って待っていた私の腕に、買って来た冷たい缶コーヒーを当ててわざとふざけて見せられるのです。
「元気を出しなさい」
がっかりしているのは、御主人様だって同じ筈なのに…。
ますます悲しく情けなくなる私は、作り笑いすらも出来ません。
そんな愛奴に、まるでご機嫌を取るような仕草で、冷えた二の腕をぷにぷにとつままれる御主人様。
本当なら余りの愛おしさにはしゃぎたくなる所ですが、拗ねた私はなかなか気持ちを立て直す事が出来なくて。
けれどこのまま離れたくはない。
そう想った私は意を決し、御主人様の優しさの勢いを借りて、いつもは言わない言葉を何とか吐き出しました。
「再来月は帰れますか?」と。
二度目の調教を計画している時。まだ御主人様というお人を良く理解出来ていなかった私は、調教を催促するような言い方をしてしまい、御主人様を怒らせてしまった事がありました。
御主人様は忙しいお方です。
そんな中でも私と過ごす時間を作って下さり、毎日必ず言葉を与えて下さいます。
だから私はいつも待つ方。
御主人様が求められる時を、只静かに。
日々、穏やかに待っているのです。
ですから自分から次回の調教について、言葉を発する事は殆どありません。
けれどこの時だけは。
このままの状態で御主人様のお傍を離れたくない。
そんな強い想いに背中を押され、絞り出すように言葉を吐き出したのです。
悪いのは私なのに。
一人で勝手に落ち込んでいる私を励ますように、直ぐに予定を確認して下さる御主人様。
「お前の誕生日の前日ですよ」
少し得意気で、意地悪な優しい眼差し。
愛おしい愛おしい私の御主人様。
次回の調教は、私の誕生日前日。
私の心をあっという間に掬い上げて下さった御主人様は、次回分の航空券を予約しておくようにとだけ言い残して歩き出されました。
今日は私がお見送りをする番。
何度も何度も振り返っては手を振って下さる御主人様。
その御姿が見えなくなるまで、私はその場に立ち尽くしていました。
明けましておめでとう御座います。
23度目の調教はこれにて終了となります。
秋からの忙しさと体調の悪さもあり、書きたい気持ちとは裏腹に年を跨いでしまいました。
今年は調教以外のお話も出来たらと思っていますので、また足を運んで頂けますと幸いです。
いつも当ブログに足を運んで下さり、ありがとうございます。
今年もどうぞ宜しくお願い致します。
愛奴
時折、咳をされている様子を気にしながら、今日も混んでいる電車に乗り込みます。
しばらく吊革に掴まっていたのですが、目の前の方が降りられたので、二人で並んで座席に座る事が出来ました。
電車の揺れに合わせて、少しだけ触れ合う肩が優しく嬉しい。
こんな光景が日常だったら良いのに…。
流れて行く景色に淡い願いを込めながら、あっという間に電車は空港へと到着しました。
いつも大勢の人々が行き交う空港は、その腕に掴まっていなければ簡単にはぐれてしまいそうで。
混雑に紛れて御主人様にくっついていた私でしたが、人気のないエスカレーターで、一段だけその距離を取りました。
べたべたするのが好きではない。
ずっと前にそう仰っていた御主人様。
その御言葉がずっと心に残っている私は、余りくっつき過ぎてはいけないのだと認識していて。
けれどその加減も良く判らずに、御主人様の様子を伺いながら行動していました。
きっと御主人様は、そんな愛奴をきちんと感じ取って下さっているのでしょう。
二段下にいる私に手を伸ばし、お腹をくすぐって来られたのです。
まるで、何故そんなに距離を取るのかと言わんばかりに。
私はそれが苦しい程に嬉しくて。
一段距離を縮めて寄り添った背中は、とても暖かく優しい物でした。
この日は食べたい物を決めていらっしゃったのか、迷う事なく一直線にお店へと向かわれた御主人様。
幾度となく訪れている空港には、幾つかのお気に入りが出来ていらっしゃるようで。
前回訪れた時と同じ席に座り、飲み物を注文し終えた時。
突然、温泉の計画を立てようと提案されたのです。
一緒にお風呂に入る度、その腕の中で過ごす時。
度々登場する温泉旅行の話題に、まだ当分先になるのだろうと想っていた私。
ですから予想もしていなかった展開に、無邪気に悦んでしまった私がいけなかったのでした。
「この日はどうですか?」
そう御主人様が指定をされたのは、以前から友達と会う約束をしていた日。
他の日が空いていないかどうか恐る恐る尋ねてはみましたが、お忙しい御主人様が首を縦に振られる筈はありません。
私にとって、御主人様より優先すべき事は何も無い。
それは非常に簡単な事で、選択する事すら無意味に感じられました。
友達に謝ろう…。日程が決まった事で、どんどんと計画を進められる御主人様。
「わくわく」という言葉そのままに、あっという間に航空券の手配まで済まされました。
それに合わせて、旅館を予約する私。
けれどもここで、再び御主人様が私の予定を確認されたのです。
この時どうして本当の事を言ってしまったのか…。
馬鹿な自分を酷く後悔しました。
けれど御主人様に嘘を吐く事等、私に出来るが筈ありません。
私は再度、友達との先約があった事を説明し、友達に謝って御主人様と温泉に行くとお話ししました。
すると御主人様は、この時初めてその事情を十分に把握された様子で…。
良く確認すれば良かったと、私に謝って来られたのです。
それは滅多に聞く事のない、御主人様からの御言葉。
私はそれが余りに悲しくて。
約束をしていた友達とは古い付き合いですし、事情を話せば理解をしてくれるだろう事は判っていました。
友達には本当に申し訳ないけれど、私はどうしても御主人様を優先したい。
私が予定を変更するから大丈夫ですと繰り返しお話をしたのですが、御主人様は既に温泉旅行の延期を決定されていました。
温泉はまた行けるのだからと。
友達との約束を守るようにと。
私はそれが悲しくて、悲しくて。
お顔からわくわく感の消えてしまった御主人様を見ながら、どうしようもなく泣きたくなっていました。
けれど。
尊敬する最愛の御主人様。
そこに寄り添う愛奴が、友達との約束を簡単に破るような薄情者で良いのだろうか…。
そう想った私は、御主人様の優しさを受け入れ、全ての予約をキャンセルしたのでした。
一緒に悦んだ気持ちがあっという間に萎んで、御主人様と私は手荷物検査場まで歩いて行きます。
酷く落ち込む私に苦笑いをされる御主人様は、ソファーに座って待っていた私の腕に、買って来た冷たい缶コーヒーを当ててわざとふざけて見せられるのです。
「元気を出しなさい」
がっかりしているのは、御主人様だって同じ筈なのに…。
ますます悲しく情けなくなる私は、作り笑いすらも出来ません。
そんな愛奴に、まるでご機嫌を取るような仕草で、冷えた二の腕をぷにぷにとつままれる御主人様。
本当なら余りの愛おしさにはしゃぎたくなる所ですが、拗ねた私はなかなか気持ちを立て直す事が出来なくて。
けれどこのまま離れたくはない。
そう想った私は意を決し、御主人様の優しさの勢いを借りて、いつもは言わない言葉を何とか吐き出しました。
「再来月は帰れますか?」と。
二度目の調教を計画している時。まだ御主人様というお人を良く理解出来ていなかった私は、調教を催促するような言い方をしてしまい、御主人様を怒らせてしまった事がありました。
御主人様は忙しいお方です。
そんな中でも私と過ごす時間を作って下さり、毎日必ず言葉を与えて下さいます。
だから私はいつも待つ方。
御主人様が求められる時を、只静かに。
日々、穏やかに待っているのです。
ですから自分から次回の調教について、言葉を発する事は殆どありません。
けれどこの時だけは。
このままの状態で御主人様のお傍を離れたくない。
そんな強い想いに背中を押され、絞り出すように言葉を吐き出したのです。
悪いのは私なのに。
一人で勝手に落ち込んでいる私を励ますように、直ぐに予定を確認して下さる御主人様。
「お前の誕生日の前日ですよ」
少し得意気で、意地悪な優しい眼差し。
愛おしい愛おしい私の御主人様。
次回の調教は、私の誕生日前日。
私の心をあっという間に掬い上げて下さった御主人様は、次回分の航空券を予約しておくようにとだけ言い残して歩き出されました。
今日は私がお見送りをする番。
何度も何度も振り返っては手を振って下さる御主人様。
その御姿が見えなくなるまで、私はその場に立ち尽くしていました。
明けましておめでとう御座います。
23度目の調教はこれにて終了となります。
秋からの忙しさと体調の悪さもあり、書きたい気持ちとは裏腹に年を跨いでしまいました。
今年は調教以外のお話も出来たらと思っていますので、また足を運んで頂けますと幸いです。
いつも当ブログに足を運んで下さり、ありがとうございます。
今年もどうぞ宜しくお願い致します。
愛奴
マッサージが終わる頃、バスタブのお湯が丁度良く満たされ、並んでお湯に浸かった御主人様と私。
隣にある肩に自然と掛け湯をしてしまうのは、重ねて来た時間の賜物だと感じていました。
それを表すように、静かにこちらへと背中を向けて下さる御主人様。
繰り返し肌を滑り落ちて行くお湯に温泉を連想されたのか、何度か利用している旅館のお話をして下さいます。
今年は旅行に行きませんでしたので、余計に温泉が恋しく感じられたのかもしれません。
御主人様が、都会の喧騒から解放される事。
私はただひたすらにそれを望んでいて。
けれど何の力も持たない私は、御主人様の為にして差し上げられる事が何もありません。
今はこうして、冷えた肩にお湯を掛け続ける事。
御主人様が心地好く感じられるよう、静かに寄り添う事。
そしていつもいつも、御主人様だけを想い続ける事。
時間が重なるにつれ、御主人様が私に何かを求められる事は少なくなったように感じます。
出逢った頃はぶつかる事も多かったのですが、それも今は懐かしい記憶。
たった数年前の事なのに、まるで遠い昔のようで。
言葉が少なくなる事の意味を理解している私は、御主人様の一部となっているような気さえしていました。
ゆったりと流れる時間と湯気。
逆上せてしまいそうだと笑い合った御主人様と私はバスタブから出ると、先に御主人様のお身体を拭き上げ、急いで私もその後を追いました。
お部屋には、既に気持ち良さそうにベッドで休まれている御主人様。
私がお傍へ寄ると、片腕をすっと伸ばして私の居場所を作って下さいます。
それは全身の産毛が逆立つような幸福感。
御主人様の指示で一時間後にアラームをセットすると、子猫のようにその腕の中へともぐり込みました。
温かい…。
御主人様の素肌が心地好くて堪らない。
程なくして聞こえてくる、穏やかな寝息。
御主人様の肺の動きをこの身体に感じながら、大きな窓に流れて行く雲を見つめ。
ずっとずっとこうしていたい。
それが叶わないのならば、このまま永遠の眠りにつけたらいいのに。
そんな事を願いながら、御主人様の呼吸に誘われ、私も深い眠りへと落ちて行きました。
ふと気が付くと、時計はチェックアウト一時間前。
御主人様は既に目を覚まされていて、私の方が熟睡してしまったようです。
慌てて飛び起きてバスタブに新しいお湯を準備し、急いで御主人様に茶封筒をお渡ししました。
私が稼いで来た金銭を数えられるのがお好きな御主人様。
その愉しみが減ってはいけないと、慌ててはみたのですが...。
封筒を受け取られると、実は前日まで体調が優れず微熱があったとの事。
その中身を少しだけ確認されると、そのままサイドテーブルに置かれてしまいました。
やってしまった…。
その流れの中に、きっと御主人様の特別な意図はなかったのだと想います。
けれど。
御奉仕が命じられなかった事。
御主人様の体調と残り時間。
少なかった稼ぎ。
沢山の要素に自分の不甲斐なさを感じた私は、小さく反省をしてから準備の整ったバスルームへと向かいました。
再び並んでお湯に浸かる御主人様と私。
温まり、お身体を拭き上げるのは私の役目。
言葉を交わさなくとも自然にそう行動出来る事が心地良く、御主人様も私に身を任せて下さっていました。
お部屋へ戻り、それぞれに身支度が完了すると、無言で私の重いスーツケースを引いて行って下さいます。
それが毎回ではないのに、こうして時折見せて下さる優しさが堪らなくて。
私は一人、笑顔を抑えきれずにその背中を追い掛けました。
ホテルのフロントで荷物の発送手続きを済ませ、すっかり身軽になった御主人様と私は、心地良い秋風の中を駅へと歩いて行きます。
珍しくまばらな人々に、御主人様の御姿を見失う事はありませんでしたが、その腕に掴まるには余りにも距離が開いていて。
追い付く事の出来ない愛奴を確認するよう、何度も何度も立ち止まっては振り返って下さるのです。
まるで、早く此処まで来なさいと仰るように。
それが嬉しくて堪らなくて。
信号で立ち止まられたその腕に、やっとの想いで飛び付いたのでした。
隣にある肩に自然と掛け湯をしてしまうのは、重ねて来た時間の賜物だと感じていました。
それを表すように、静かにこちらへと背中を向けて下さる御主人様。
繰り返し肌を滑り落ちて行くお湯に温泉を連想されたのか、何度か利用している旅館のお話をして下さいます。
今年は旅行に行きませんでしたので、余計に温泉が恋しく感じられたのかもしれません。
御主人様が、都会の喧騒から解放される事。
私はただひたすらにそれを望んでいて。
けれど何の力も持たない私は、御主人様の為にして差し上げられる事が何もありません。
今はこうして、冷えた肩にお湯を掛け続ける事。
御主人様が心地好く感じられるよう、静かに寄り添う事。
そしていつもいつも、御主人様だけを想い続ける事。
時間が重なるにつれ、御主人様が私に何かを求められる事は少なくなったように感じます。
出逢った頃はぶつかる事も多かったのですが、それも今は懐かしい記憶。
たった数年前の事なのに、まるで遠い昔のようで。
言葉が少なくなる事の意味を理解している私は、御主人様の一部となっているような気さえしていました。
ゆったりと流れる時間と湯気。
逆上せてしまいそうだと笑い合った御主人様と私はバスタブから出ると、先に御主人様のお身体を拭き上げ、急いで私もその後を追いました。
お部屋には、既に気持ち良さそうにベッドで休まれている御主人様。
私がお傍へ寄ると、片腕をすっと伸ばして私の居場所を作って下さいます。
それは全身の産毛が逆立つような幸福感。
御主人様の指示で一時間後にアラームをセットすると、子猫のようにその腕の中へともぐり込みました。
温かい…。
御主人様の素肌が心地好くて堪らない。
程なくして聞こえてくる、穏やかな寝息。
御主人様の肺の動きをこの身体に感じながら、大きな窓に流れて行く雲を見つめ。
ずっとずっとこうしていたい。
それが叶わないのならば、このまま永遠の眠りにつけたらいいのに。
そんな事を願いながら、御主人様の呼吸に誘われ、私も深い眠りへと落ちて行きました。
ふと気が付くと、時計はチェックアウト一時間前。
御主人様は既に目を覚まされていて、私の方が熟睡してしまったようです。
慌てて飛び起きてバスタブに新しいお湯を準備し、急いで御主人様に茶封筒をお渡ししました。
私が稼いで来た金銭を数えられるのがお好きな御主人様。
その愉しみが減ってはいけないと、慌ててはみたのですが...。
封筒を受け取られると、実は前日まで体調が優れず微熱があったとの事。
その中身を少しだけ確認されると、そのままサイドテーブルに置かれてしまいました。
やってしまった…。
その流れの中に、きっと御主人様の特別な意図はなかったのだと想います。
けれど。
御奉仕が命じられなかった事。
御主人様の体調と残り時間。
少なかった稼ぎ。
沢山の要素に自分の不甲斐なさを感じた私は、小さく反省をしてから準備の整ったバスルームへと向かいました。
再び並んでお湯に浸かる御主人様と私。
温まり、お身体を拭き上げるのは私の役目。
言葉を交わさなくとも自然にそう行動出来る事が心地良く、御主人様も私に身を任せて下さっていました。
お部屋へ戻り、それぞれに身支度が完了すると、無言で私の重いスーツケースを引いて行って下さいます。
それが毎回ではないのに、こうして時折見せて下さる優しさが堪らなくて。
私は一人、笑顔を抑えきれずにその背中を追い掛けました。
ホテルのフロントで荷物の発送手続きを済ませ、すっかり身軽になった御主人様と私は、心地良い秋風の中を駅へと歩いて行きます。
珍しくまばらな人々に、御主人様の御姿を見失う事はありませんでしたが、その腕に掴まるには余りにも距離が開いていて。
追い付く事の出来ない愛奴を確認するよう、何度も何度も立ち止まっては振り返って下さるのです。
まるで、早く此処まで来なさいと仰るように。
それが嬉しくて堪らなくて。
信号で立ち止まられたその腕に、やっとの想いで飛び付いたのでした。