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御主人様と愛奴 変態の日々の記録

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愛奴

Author:愛奴
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18度目の調教⑥ ~愛奴の葛藤~

それぞれに身支度を始めた御主人様と私。

開いただけで中身を使わなかったスーツケースのジッパーを閉じながら、使用して頂いた穴は一つだけだったなと想い返していました。

けれどそれは葛藤や落胆ではなく。

御主人様のお気持ちのままに在る事が私の悦びであるのだから、その事実を当然の事として受け入れられるようになりたいという素直な想いでした。

今はまだそうなれず、今日も私の感情は嵐のように忙しく表情を変え続けていましたから。

何度決意をしても、なかなかそこには辿り着けない。

そんな自分を十分過ぎる程に理解している私は、呆れた小さな笑いを心の中で繰り返しながら、クローゼットから取り出したジャケットとコートを御主人様の背中に掛けました。

うなじから見えるお顔色も悪くないし、お疲れになっている様子もない。

御主人様がお元気である事を確認した私は、元通りに閉じたスーツケースを引き、その背中に続いてお部屋を後にしました。




荷物をホテルのフロントに預けて身軽になった私は、ようやく御主人様の腕に掴まります。

いつものように引き摺られるように歩きながら、相変わらず人の多い電車へと乗り込みました。

御主人様と一緒に座れる事は殆どないのですが、この時は久しぶりに並んで座る事が出来たのです。

狭い座席に、体の側面が御主人様に触れている…。

それだけでも嬉しくて堪らないのに、御主人様は電車の揺れに任せて、そのまま私に体重を預けてこられました。

その幸福感に、くすくすと小さく笑う私。

愛おしい…愛おしくて愛おしくて堪らない。

このままずっと電車が走り続けてくれたらいいのに…。

満員電車の中での密かな御主人様とのやりとりは、余りの愛おしさに私を押し潰してしまいそうでした。




けれど毎度の私の願いは叶う筈もなく、人の流れと共にホームへと押し出されて行きます。

歩くのが速い御主人様。

歩くのが極端に遅い私。

直ぐに広がってしまうその距離感を知っている御主人様は、何度も振り返っては、私がついて来ているかを確認して下さいます。

けれど私が御主人様の腕に掴まるより早く御主人様は歩き出されてしまうので、その行動は幾度となく繰り返されていました。




空港に到着した御主人様と私。

いつものように食事をしながら、色んなお話をして下さる御主人様。

博学な御主人様は、私の知らない事を沢山御存知で。

御主人様の事を尊敬する一方で、如何に自分の見て来た世界が小さかったのか、自分の視野の狭さを痛感する。

それはいつもの事なのですが、この時の私はいつも以上にひねくれてしまっていました。




御主人様が私に色んな事を教えて下さる。

嬉しい。

御主人様が見ていらっしゃる世界を私に教えて下さる事が嬉しい。

御主人様はやっぱり凄い。

凄い…。

けれど...。

私はその隣には並べない。

愛奴なのだから隣に並びたいだなんて烏滸がましい。

それは当然の事。

当然の事なのだけれど…。

「ああ、そうか…私は御主人様の隣に並びたかったんだ…」




そう自分の心と向き合ってしまった私には、メニューを相談して下さっている御主人様の言葉が頭に入って来ません。

こんな事を想ってしまう事自体、馬鹿げている。

スーツケースを閉じる時にも、その御心のままに在りたいと望んだばかりなのに。

御主人様の何気ない御言葉一つで、私の心はまた大嵐となっていたのです。




「形式的なものばかりに目を向けていると、足元の大事なものが見えなくなる。

私の心を独占しておいて、その他に何を独占したいと望むのか」

御主人様に見つけて頂いて間もない頃。

まだそのお考えをきちんと理解出来ずにきゃんきゃんと鳴き喚いていた頃に頂いた御言葉。

その時の私にはよく理解出来なかったけれど、こうして行き詰まった時には必ず想い出して、御主人様の御心の下にある自分という物を見つめ直します。

私は何処まで行っても馬鹿で仕方なくて、直ぐにその行き先を見失ってしまいがちですから。

御主人様の御言葉は、全て御主人様からの教え。

その御心の通り、御主人様はいつもいつでも私を大事にして下さっている。

それが違った事等、唯の一度もない。

そう解っているからこそ、そう在れない自分が苦しくて堪らなくて。

ぐっとこみ上げてくる物を一旦落ち着かせようと、トイレに行こうかと想った時。

「ぼうっとしてどうしたのですか」

ろくに返事もしない愛奴に、御主人様がこちらを見ていらっしゃいました。

私はポーカーフェイスが出来る程、大人ではありませんし、それが御主人様の前なら尚の事。

けれど指摘される程の表情をしていたのかと驚いた私は、溢れる寸前だった気持ちをぐっと飲み込みます。

せっかくの御主人様との時間を壊してはいけない。

御主人様に悦んで頂く事が、愛奴である私の努めなのだから。

せめてそれくらいは出来る愛奴であろうと、必死に自分をコントロールしていました。




けれど御主人様はそんな愛奴に気が付かれていたのかもしれません。

食事を終え、後ろをちょこまかとついて来る私に、立ち止まってその腕を差し出して下さったのです。

見えているのは御主人様の背中と、私が掴まりやすいように軽く曲げられた右腕。

真っ直ぐ正面を見据えていらっしゃる御主人様は、まるでバージンロードか何かのよう。

初めて見る光景に驚き、悦び、私はその優しさが嬉しくて、苦しくて。

おもいきり飛びついてはしゃぐ愛奴の太腿を優しく叩きながら、御主人様と私は手荷物検査場へと歩いて行きました。




あっという間に迫る時間。

いつもは検査場のだいぶ手前で見送って下さる御主人様は、この日はぎりぎりの所まで一緒に来て下さっていました。

それだけで嬉しくて堪らない。

行ってきなさいという御言葉の代わりに、また太腿を叩かれます。

私は「行ってきます」とお返事をして、駄々を捏ねる事なく、力強く歩き出しました。

時折振り返りながら、見送って下さっている御主人様に大きく手を振る。

私、もっと頑張ります。

もっともっと愛奴として精進して行きます。

御主人様の為に。

御主人様の為だけに。

御主人様の為に生きて行きますから。

そんな決意を掌に込めて、御主人様へ届くように大きく手を振りました。




検査を終え、それぞれに歩き出した御主人様と私。

いつもは寂しさが襲って来ますが、この時ばかりは胸を撫で下ろしていました。

我慢出来た…。

醜い姿を御主人様の前に出さず抑えられたと、私は妙な安堵感を覚えていたのです。




今回の調教は、私自身の葛藤調教。

御主人様は、「葛藤する必要がない事を理解しなければなりませんね」と言って下さいましたが、心は相変わらず言う事を聞いてくれません。

私はまだまだ駄目な愛奴ですが、御主人様の自慢の愛奴でいられるよう、もっともっと清く在りたい。

そう想い、覗いた飛行機の小さな窓には、幾つもの雨の雫。

それはまるで私が飲み込んだ物のように、真っ暗な空へと流れて行きました。








18度目の調教はこれにて終了となります。

周回遅れもなんとか追いつき、19度目の調教は前回分となりました。

既に決定している次回の調教までに、極力書いておきたいと思っていますので、見守って頂けると幸いです。




いつも当ブログに足を運んで下さり、ありがとうございます。

19度目の調教も宜しくお願い致します。



愛奴



【 2019/04/29 00:17 】

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